近年、サイバー攻撃は巧妙化・高度化しており、企業にとって深刻な脅威となっています。そのような中、被害を最小限に抑えるために欠かせないのがSIEMと呼ばれるセキュリティ管理システムです。
本記事では、SIEMの概要や導入するメリットを解説し、代表的なSIEM製品も紹介します。企業システムのセキュリティを強化したい企業は、ぜひ参考にしてください。
SIEMとは?セキュリティにおける基本概念
SIEMとは「Security Information(セキュリティ情報) and Event Management(イベント管理)」の略で、企業のセキュリティを強化するための統合的なソリューションです。SIEMはログデータの収集、分析、可視化を通じて、潜在的な脅威を早期に発見し、迅速な対応を可能にします。
SIEMは近年再び注目を集めている
SIEM自体は以前から使用されていましたが、クラウド技術の発展に伴い、再び注目を集めています。
クラウド型SIEMの利点は、導入の容易さや拡張性の高さにあります。オンプレミス型と異なり、高価なハードウェアや専門知識は不要で、初期費用を抑えながら迅速に導入できます。また、データ量に応じて柔軟にスケールできるため、将来的な事業拡大にも対応可能です。
さらにクラウド型SIEMは、AIを活用した高度な分析機能を搭載していることが多く、従来のSIEMでは見逃しがちだった潜在的な脅威も発見できます。
SIEMが生まれた背景
SIEMは企業のITインフラの複雑化と、サイバー脅威の高度化に対処する必要性から生まれました。従来のセキュリティツールでは、膨大なログデータから異常を見つけ出すことが難しく、手動の監視や分析には限界がありました。この課題を解決するために、ログデータを一元管理し、自動的に異常を検出するSIEMが開発されたのです。
また規制遵守の観点からも、企業はログデータの管理と監査を求められるようになり、SIEMの導入が進みました。結果として、SIEMはセキュリティ運用の効率化とインシデント対応の迅速化、監査対応の効率化を実現し、現代の企業にとって不可欠なツールとなっています。
SIEM製品の主なセキュリティ機能
SIEMは、多岐にわたるセキュリティ機能を提供しており、組織のセキュリティ体制強化が実現できます。下記4つの機能を活用することで、潜在的な脅威を迅速に特定し、適切な対策を講じることが可能です
脅威インテリジェンス
脅威インテリジェンスは、最新のサイバー脅威情報を収集、分析し、セキュリティ対策に反映させる機能です。未知のマルウェアや新たな攻撃手法に対する防御策を迅速に適用できます。
SIEMの脅威インテリジェンス機能は、過去のインシデントデータと照合することで、潜在的な攻撃を予測し、事前に防ぐための情報を提供します。結果として、企業はより効果的なセキュリティ対策を講じ、攻撃による被害を最小限に抑えることが可能です。
イベントログ
イベントログ管理は、SIEM製品の中心的な機能の1つです。SIEMはネットワークデバイス、サーバー、アプリケーションから生成される膨大なログデータを一元的に収集し、保存する機能です。ログデータには、ユーザーのアクセス履歴、システムの動作状況、セキュリティインシデントの詳細などが含まれます。SIEMはこれらのデータをリアルタイムで監視し、異常な活動やパターンを自動的に検出します。
さらに、過去のログデータを分析することで、長期的なトレンドや潜在的な脅威を特定し、将来的なセキュリティ対策の改善に役立てることが可能です。ログ管理の効率化により、セキュリティ事故に対して迅速な対応が可能になります。
行動分析
行動分析は、ユーザーやシステムの通常の活動パターンを学習し、それらから逸脱する異常な行動を検出する機能です。SIEMは、AIを活用して、正常な行動ベースラインを構築します。
これにより、内部脅威や潜在的な攻撃の早期発見が可能です。例えば、通常はアクセスしないシステムへの突然のログイン試行や、異常に大量のデータ転送などをリアルタイムで検出し、アラートを発します。行動分析は、従来のシグネチャベースの検出方法と比較して、未知の脅威に対する検出能力を大幅に向上させるため、企業のセキュリティ対策において重要な役割を果たします。
ネットワークモニタリング
ネットワークモニタリングは、企業のネットワークトラフィックをリアルタイムで監視し、異常な活動を検出する機能です。SIEMは、ネットワーク内の全ての通信を監視し、通常とは異なるトラフィックパターンや、既知の悪意あるIPアドレスとの通信を識別します。
これにより、DDoS攻撃やデータ漏えいなどのサイバー攻撃を早期に発見し、適切な対策を講じることが可能です。さらにネットワークモニタリングは、ネットワークパフォーマンスの監視にも役立ち、障害の原因特定やトラブルシューティングを迅速に行うための情報を提供します。この機能によりSIEMは、セキュリティと運用の両面で企業にとって不可欠なツールとなっています。
SIEMのメリット
SIEMには、セキュリティを向上させる多くの機能が備わっており、導入のメリットも多くあります。ここでは、代表的なメリットについて解説します。
ログの一元管理が可能
SIEMは、複数のソースから生成される膨大なログデータを一元管理することができます。ネットワークデバイス、サーバー、アプリケーションなど、さまざまなシステムからのログを集中して収集し、統合された監視モニターで管理します。これにより、異常を迅速に検出することが可能です。
ログの一元管理は、監査やコンプライアンス遵守のための証拠としても活用でき、規制要件を満たすために必要なログデータを容易に提供できます。この機能により、セキュリティ担当者は効率的にログデータを分析し、迅速かつ的確な対応だけでなく、監査対応の効率化も行うことができるようになります。
セキュリティのリアルタイム監視が可能
SIEMは、ネットワーク全体のセキュリティをリアルタイムで監視する機能を提供します。リアルタイム監視により、異常なトラフィックや疑わしい活動を即座に検出し、セキュリティ事故に迅速に対応できます。これにより、サイバー攻撃の早期発見と被害の最小化が可能となります。
SIEMは、アラートや通知機能を備えており、異常が検出された際にはセキュリティ担当者に即時通知されます。これにより、インシデント対応のスピードが向上し、企業のセキュリティ体制が強化されます。リアルタイム監視は、24時間365日のセキュリティ運用をサポートし、企業の資産を守るために欠かせない機能です。
内部不正の早期発見
SIEMは、内部不正の早期発見にも効果を発揮します。ユーザーの行動やシステムアクセスのログを詳細に記録し、異常な行動を検出することで、内部の脅威を早期に発見します。例えば、通常業務時間外の不審なアクセスや、大量のデータを突然ダウンロードする行為など、内部不正の兆候をリアルタイムで監視します。
これにより、内部不正が発生してもすぐに対策を講じることが可能です。また、SIEMの監視が従業員に対する抑止力として機能し、不正行為の発生率を低減させる効果もあります。企業は、信頼性の高いセキュリティ環境を維持し、内部不正からのリスクを最小限に抑えられます。
セキュリティ運用の自動化による作業効率化
セキュリティ運用の多くのプロセスを自動化し、作業効率を大幅に向上させられることもSIEMのメリットです。異常検知、アラート生成、インシデント対応など、手動で行っていた複数の作業を自動化することで、セキュリティ担当者の負担を軽減します。自動化されたプロセスにより、セキュリティインシデントに迅速かつ的確に対応でき、企業全体のセキュリティ対策が強化されます。
SIEMを有効活用することで、インシデント対応のワークフローを統合し、関係者への迅速な情報共有が可能です。これにより、セキュリティ事故発生時の解決時間が短縮され、企業の業務継続性が向上します。
SIEMと他のセキュリティ用語との違い
IT業界は、SIEMのようにアルファベット3文字、4文字で表す言葉が多く存在します。セキュリティ関連の用語に混同しやすいものが多いため、これらの用語とSIEMとの違いについて解説します。
SIEMとSOARの違い
SIEMは、ログやイベントデータを収集し、分析することで、脅威を検知し、可視化するためのツールです。
SOARは、日本語で「セキュリティのオーケストレーションと自動化によるレスポンス」を意味します。従来、サイバー攻撃への対応は手作業で行われてきましたが、SOARは、インシデント発生時の対応を自動化できます。
SIEMとSOARを組み合わせて使用することで、より効果的なセキュリティ対策が可能です。
SIEMとEDRの違い
EDRは、日本語では「エンドポイント検知・対応」という意味です。従来のアンチウイルスソフト(EPP)では、既知の脅威のみを検知・駆除していましたが、EDRは既知の脅威だけでなく、未知の脅威も含めたあらゆるセキュリティリスクを検知できます。
アプリケーションのログやシステムのイベントデータを収集し、脅威検出をするソリューションがSIEMで、パソコンやスマートフォンなどエンドポイント端末を保護するソリューションがEDRです。
SIEMとIDSの違い
IDSは日本語で「不正侵入検知システム」と呼ばれています。ネットワークやシステムに不正アクセスや異常な通信がないかを監視し、検知した場合に管理者に通知するセキュリティツールです。
セキュリティの脅威を検出するのがSIEMであり、ネットワークトラフィックやシステムを監視して不正アクセスがあった場合に通知を行うのがIDSという違いがあります。
SIEMとSOCの違い
SOCとは「セキュリティオペレーションセンター」の略です。組織のネットワークやシステムを24時間365日体制で監視し、サイバー攻撃を検知、分析、対応する専門組織のことを指します。
SOCの専門チームも、脅威の検出を行う際にSIEMを取り入れています。SOCではSIEMと異なり、ログの収集や脅威検出だけでなく、実際にインシデントが起きた際の対応も行っています。
SIEM製品の一覧
SIEMは、多様なセキュリティニーズに対応するためにさまざまな機能を提供しています。ここでは、代表的なSIEM製品を紹介します。それぞれの製品が持つ特長や機能を理解し、組織のセキュリティ対策に最適なソリューションを選ぶ際の参考にしてください。
IBM Security QRadar SIEM
誤検出発見時間を大幅に削減し、セキュリティ事故調査時間を90%以上短縮、さらに、重大なセキュリティ侵害リスクを60%減少させるSIEMソリューションがIBM Security QRadar SIEMです。
高度なAIと脅威インテリジェンスにより、既知の脅威だけでなく、未知の脅威も迅速かつ正確に検知します。QRadar SIEMは、あらゆる規模の組織がセキュリティ体制を強化し、ビジネスを保護するのに最適なソリューションです。
LogRhythm
LogRhythmは次世代のSIEMツールとして注目されています。
サーバー、アプリのログだけでなく、ネットワーク機器やセキュリティ機器などの、多様なデータソースを取り込んで分析可能です。
800種類以上の製品やアプリケーションのデータを収集し、あらかじめ設定された1000以上の相関分析ルールを使って、容易に脅威を識別します。さらに、UEBA機能で内部の不審な行動も検出し、迅速な対応をサポートしています。
SIEMツールは、設定や運用に専門知識が必要で導入のハードルが高いといわれていますが、LogRhythmはサンプルが用意されており、導入も比較的容易なツールです。
ManageEngine Log360
ManageEngine Log360は、ゾーホージャパン提供のSIEMソフトウェアです。情報システムやセキュリティ製品、ネットワーク機器からログを収集・分析し、セキュリティ状況を可視化します。
ManageEngine Log360の特徴は、さまざまな機器から収集した情報を元に、ユーザーの行動を分析する点です。分析したユーザーの行動パターンを元に、不正な動きや異常を検知します。これにより、内部脅威やアカウント侵害、データ流出などを迅速に発見します。特定の分野だけでなくどのような業種でも導入できる点が魅力です。
ManageEngine Log360の年間ライセンス(使用量)は、16.1 万円〜となっています。
Splunk Enterprise Security
Splunk Enterprise Securityは、脅威検知、データ収集・分析、リスクの可視化を実現するSIEMソリューションです。
システムやネットワーク機器からログを収集し、相関ルールに基づいてサイバー攻撃や情報漏えいなどのセキュリティインシデントを高精度で検知します。Splunk SOARとの連携により、脅威判定や一次対処、優先順位付けを自動化し、セキュリティ運用の効率化と迅速化を支援します。
ダッシュボードでインシデントの影響範囲を一元的に調査し、リスクスコアリングで優先順位を付けて迅速な対応が可能です。
SIEMツールを選ぶ際のポイント
適切なSIEMツールを選ぶことは、企業の情報資産を保護するために重要です。そこで、自社に適したSIEMツールを選ぶ際のポイントを解説します。
必要なログが取得できるか確認する
SIEMツールを選ぶ際の最も重要なポイントは、必要なログを全て取得できるかどうかです。セキュリティ事故検知・分析には、ファイアウォール、サーバー、アプリケーションなど、さまざまなソースからのログを収集する必要があります。
しかしSIEMツールによっては、特定のログソースに対応していない場合があります。そのため、導入前に自社が必要なログが全て取得できるか確認することが重要です。また、ログのフォーマットにも注意する必要があります。SIEMツールによっては、特定のフォーマットのログしか扱えない場合があります。
ログの保管期間を確認する
SIEMツールは、収集したログを一定期間保管する必要があります。セキュリティ事故が発生した場合、過去のログを分析することで、インシデントの原因究明や再発防止に役立てられるでしょう。
ログの保管期間は、組織のセキュリティポリシーや法規制によって定められていますが、一般的には、数カ月から数年程度のログを保管する必要があります。
SIEMツールによっては、ログの保管期間を自由に設定できない場合があるため、導入前にログの保管期間を確認することが重要です。
自社のセキュリティ要件にあっているか確認する
SIEMツールには、さまざまな機能があります。全ての機能が必要なわけではなく、自社のセキュリティ要件に合致した機能を備えたツールを選ぶことが重要です。
例えば、自社がPCI DSSなどのセキュリティ規格に準拠している場合、その規格に対応した機能を備えたSIEMツールを選ぶ必要があります。また、自社がマルウェア対策に重点を置いている場合、マルウェア検知機能が強力なSIEMツールを選ぶべきです。
SIEMツールの機能はベンダーによって異なるため、導入前に各ツールの機能を比較検討することが重要です。
製品の拡張性を確認する
SIEMツールの選択において、システムの規模や運用状況に合わせた拡張性が重要です。製品の拡張性を確認するには、主にライセンス体系やサポート体制などに注目する必要があります。
例えば、ログの量が増えた場合や、新システム導入時に、追加ライセンスを購入することなく拡張できるかを確認します。また、サポート体制についても、日本語サポートの有無や、迅速な対応が期待できるかなどを確認する必要があります。
SIEMツールのセキュリティ向上と利便性を高めるために「Identity Edition」がおすすめ
HENNGEが提供する「HENNGE One Identity Edition」は、SIEMと連携することで企業のセキュリティレベルを向上させることができるソリューションです。
Identity Editionにある、シングルサインオン機能では、SaaSをはじめとする各種システムへのアクセスを一元化させることができ、アクセス制御機能と組み合わせることで不正アクセスを防ぐことができます。また、HENNGE Oneで取得したアクセスログをSIEMで分析することで、セキュリティ向上が可能になります。
HENNGE ONE Identity Editionは、金融機関、大手企業、行政機関など、幅広い業種・業態で導入されている実績のあるソリューションです。ご興味をお持ちの方は、リンクよりお気軽にお問い合わせください。
まとめ
SIEMは、高度化するサイバー脅威から組織のセキュリティを守るために不可欠なツールです。 ログデータを収集・分析することで、セキュリティ事故を早期発見・対応し、被害を最小限に抑えることができます。
SIEM導入にはコストや人材などの課題もありますが、そのメリットは計り知れません。 セキュリティ対策を強化したいと考えている場合は、ぜひSIEM導入を検討してみてください。SIEM製品導入時には、HENNGE ONE Identity Editionの活用もあわせてご検討ください。
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